私達が暮らす地球は、長い年月をかけて自然の循環によって成り立っています。その循環の中心は土壌。
土壌は植物の生育や生態系の維持に不可欠な要素で、私たち人間の健康と食料の安全保障にも密接に関わる命の土台です。
現代農業と都市化がもたらした自然循環の乱れ
科学的肥料や農薬の乱用、過度な耕作や土地の乱開発などは、土壌の生態系を破壊し栄養循環を阻害する要因になっています。土壌本来の豊かさと健康をもはや奪い取ったレベル。
これは持続可能な未来への道を脅かしています。
気象の変化、頻繁に起こる自然災害、様々な生物の絶滅など、鈍感な我々にも実感できるほどの状況はSDGsという言葉を生み出しました。
実は、我々の健康にも多大な影響がでているはずですが、もはや感じ取れない鈍感さが身についています。
そもそも土壌の自然循環とはどういうもの?
土壌内では、植物の根、土壌生物、微生物、有機物、鉱物などが相互に作用しあいながら栄養やエネルギーを循環させています。
この土の中で行われている営みを真に理解していれば、簡単に異質ななものを入れ込んだり、土の中を触ったりはできないはず。
1,有機物の分解と栄養循環
土壌内には植物や動物の死骸、落ち葉、根や茎などの有機物が存在し、この有機物は、微生物(バクテリアや菌類など)によって分解されます。
分解の過程で、有機物の中に含まれる栄養素(窒素・リン・カリウムなど)が土壌中に利用可能な形で放出されます。
自然農で土を耕さないということは、土壌内で行われているこれらの営みの邪魔をしないということです。
2、根系による栄養吸収と植物の成長
植物の根は、土壌中の栄養分を吸収し、成長に必要な栄養を供給しています。根は微小な根毛を持ち、この根毛が土壌粒子や有機物の周囲に存在する栄養分を吸収します。
特に窒素・リン・カリウムなどの主要な栄養素は、植物の成長に欠かせません。
3,土壌生物の活動と相互作用
土壌内には様々な微生物が生息しており、有機物の分解や栄養循環に関与しています。これらの微生物は、根系との相互作用により、栄養分の供給や植物の生育を促進します。
また土壌内に生息する他の生物、ミミズ、昆虫、モグラなども土壌の構造を改善し、栄養循環に貢献しています。
自然農ではすべての植物を根こそぎ引き抜くことをしません。種まきや苗の植え付けをする部分のみ取り除くことはありますが、表層の部分を草刈り鎌で刈り取り、その場においていきます。
植物の根は土の中で様々な働きをしています。枯れるとその部分にできた空洞が空気層になり、微生物や土壌生物の住処となるわけです。
刈り取った草をその場においていくのは、土の湿度を保つ効果もあり、生物の住処にもなり、微生物の力で分解され栄養分として土に帰っていくという自然の循環に習っています。
土の中にも一つの宇宙があり、その多様性の中で、目には見えないけれども地球全体に、ひいては宇宙に様々な影響を与えているわけです。
そういう一連の営みを理解すれば、人間が安易に触る場所ではないことが理解できます。
4,有機物の再育成と土壌の持続性
土壌の有機物は、微生物の分解によって二酸化炭素と水に分解され、一部は新たな有機物として土壌中に残ります。これによって新たな有機物が育成され、持続的な栄養循環が維持されます。
有機物は土壌の保持性にも大きく関与しており、保水性や保肥性、通気性を向上させます。
このように、自然循環では、植物が栄養を吸収し成長する一方で、土壌中の有機物は、微生物により分解され栄養素となり、また新たな有機物として土壌に再育成されています。
土壌生物との相互作用により、栄養の循環が維持され、土壌の健康状態が保たれます。
土壌を本来の自然循環の中に取り戻すには、意識改革と行動が必要。
土壌を本来の自然循環の中に取り戻すことは地球全体の地力を高めるだけでなく、地球も人も蘇る力になります。
それには3〜4年の間、種だけ蒔いて一切手を出さない、収穫もしないという方法、福岡正信さんの泥団子播きが一番有効だと思うのですが、一気にそこまで行くのは難しくとも、庭先で自然の循環にそった小さな菜園を作り、実践と観察をしていくことは直ぐにできることだと思うのです。
営農の場合は、それぞれの生活を担っています。まずは化学物質の使用量を減らしていくことに始まり、有機物の活用、土壌保護など地道な積み重ねが必要ですが、個人の庭先や自家菜園の場合、自然循環に委ねた手法で収穫物を得ることは、意識を変えるだけで簡単にできます。
最初の数年は試行錯誤で収穫量も上がらないでしょうが、そこを乗り切り、自然循環の中に落とし込んでしまえば楽に手間少なく、少コストで健康的な野菜を収穫できるようになるはず。
自然農法による土壌の回復と保護は、地球全体の地力を高めるだけでなく、私たちの生活にも多くの利益をもたらします。土壌が健康で栄養豊富な状態に戻ると、作物の味や栄養価が向上し、私たちはより健康的な食品を摂取できるようになります。
また、土壌の循環が回復することで、水の浄化や炭素の貯留、生物多様性の維持など、地球環境全体にポジティブな影響を与えることも期待できます。
土壌を本来の自然循環の中に取り戻すことは、私たちが地球と共に持続可能な未来を築くための重要な一歩です。そのためには個人の力の集結が最も有効ではないでしょうか。